2012年5月3日木曜日

情報リテラシ、電子データの特性(2) | Keep It Simple.


前回のエントリでは、「パソコンリテラシも大切だが、情報リテラシも大切だ」ということを述べた。
今回は、その「情報リテラシ」というものの根っこの考えを、図をもとに説明してみる。

この図は、「情報リテラシ」の最も基本になるのは、「電子データの特性」で、それに情報そのものが持つ「情報の属性」が組み合わされて、「道具」が選択される、ということを示したもので、以下、左側の「電子データの特性」から説明する。

■電子データの特性

まず、仕事での利用にせよ、プライベート利用にせよ、情報システムを使うにあたっては、「電子データそのもの」が持つ特性を意識しておく必要がある。

料理本のレシピを完璧に再現すれば、仮に調理人が「塩はしょっぱい、砂糖は甘い」ということを理解していなくても美味い料理が作れるかもしれない。
しかし、それで良しとしてしまえば、そこから先に工夫や新しい料理が生み出される可能性は限りなく低くなる。
「電子データの特性を知る」ということはそれと同じことで、前回のエントリでいう「パソコンリテラシ」という面で情報システムを利用する分には、実は「電子データの特性」を知らなくてもなんとかなる。

ただ、「電子データの特性」というものを意識するのとしないのとでは、理解の深さ、応用力、新しいものへの対応力、といった面で天と地ほどの差が出てくる。

ここで挙げる「電子データの特性」とは、「今更こんなの言われなくても分かるよ」というくらい当たり前のことなのだが、それ故に見落としやすいため、あえて明示する。

・すばやく伝達される
紙やメディア(CD,DVD、テープ)であれば、郵便という物理的な運搬方法を使わなくてはならないが、電子データの場合、文書、写真、動画、音声どのようなものでもネットワークを介して瞬時に伝達できる。


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・容易に複製できる
パソコンで作った文書、デジカメで撮った写真・動画などのデジタルデータは、コスト0で完全コピーができる。
書類であれば、コピー印刷や写経のようなことをしなくてはならないし、なおかつ情報が劣化する。
コスト0完全コピーというのは、大きな危険も伴うが、同時に大きな利点の一つでもある。

・検索できる
書棚の書類にインデックスラベルを整理するように、テキストデータは検索対象とすることが出来る。
Golgleはインデックス化されたデータを用いて、億を超えるページから瞬時に検索結果を返す。書類や棚のように、物理的な制約があると、そうはいかない。

・省スペース
小さなUSBメモリ一つに膨大な情報を記録することが出来る。おそらく自分が子供のころから読んだ本、読んだ教科書などは余裕ですっぽり入ってしまう。
物理的な空間を占有しないというのは、電子データならではの大きな特性だ。

・計算が早く正確
数値計算はコンピュータのもっとも得意とするところで、早く、大量に、正確に、という点では人手では勝負にならない。

・同時にアクセス
インターネット掲示板など、電子データであれば、帯域の許す限り、何万人が一つの情報にアクセスすることが可能だ。

・アクセス制御ができる
セキュリティの観点の話だが、物理的な鍵ではなくて、電子的な認証で情報へのアクセス制御をすることもできる。

・ハイパーリンク
モニタ上で、文字をクリック(タップ)するとリンク先に切り替わる、というのも、もはや当たり前のようだが、書類ではありえない。

以上、電子データが持つ強力な特性を8つ挙げた。

これらを意識的に、複合的に組み合わせて利用することが、「効果のある情報システム」のスタートになる。

次は「情報の属性」について説明する。

■情報の属性

電子データの特性に加え、「情報リテラシ」を考える上では、情報の持つ属性についても考慮したい。


緑の建物は何ですか?教授。

普段、電子メールでやり取りしているデータを考えると分かりやすいが、受信ボックスをみるとメルマガやリマインド通知、取引先からの問い合わせ、メーリングリスト、などが溜まっている。

それらを分類してみると、メルマガは一方通行のマス配信情報だし、リマインド通知はすぐに用を終える寿命の短い情報だ。
取引先からの問い合わせメールは、自分あてに届いている回答して解決するまで消してはならない情報だ。
メールボックスの中の「情報」を見ただけでも、雑多な情報が混然一体となって保管されている。

それらの雑多な情報に一つの方向性をつけるために、図にあるような「属性」を考えてみる。

・向き
情報の向きが単方向か、双方向か。
通達のような情報は一方通行といえるし、アンケートなどは双方向の情報といえる。
情報には流れていくべき「向き」というものがある。

・範囲
個人で完結する情報か、グループや特定の人と共有されるものか、広く一般に公開されるものか。
日記は個人で完結するし、手紙に書くような情報は特定の人と共有されるもの、また、「指名手配」のようなものは、一般公開されるべきものだ。このように情報には「範囲」という属性がある。

・保管期間
情報には寿命がある。アルバムのようにずっと保管するものか、メルマガのように消費されるものか。通帳の情報が時間とともに消え去るのはあってはならないが、一方、「新着メッセージが届きました」というような情報は、アクセスされた瞬間に役目を終える。
このように情報には保管期間・寿命という属性がある。
これは「ストックとフロー」という表現がされることもある。

・形式
テキストデータか、動画や写真、音声のようなバイナリデータか。これは保管やアクセスの要件にもかかわってくるので、属性として挙げている。


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・タイミング
定期的に発生するものか、突発的に発生するものか。またどのくらいのスパンで発生する情報か。
スーパー売り上げデータのように、細かなスパンで不定期に発生する情報もあれば、天気予報のように定期的に流される情報もある。
このタイミングというのはこの後で述べる道具の選択にも大きくかかわってくるので、情報の属性として挙げている。

以上、「情報の属性」を5つ挙げたが、「電子データの特性」同様、これらの属性は同時に複数持たれることが多い。
その組み合わせと「電子データの特性」を勘案し、適切な「道具」を選択すること。それが「情報リテラシ」につながる。

■道具

「電子メールを使うべきか、SNSを使うべきか、グループウェアを使うべきか」、「データベースサーバで管理すべきか、エクセルで処理すべきか、アクセスで十分か」、といった「道具の選択」は、「電子データの特性」と「情報の属性」を考慮すれば、おのずと明らかになってくることが多い。

ところが、「道具ありき」でシステム化などを進めると、大体行き詰る。
それは「道具の要件」が「情報の要件」に対応していないことがあるためで、それはサイズを測らずに服を買うようなものだ。
買ってしまってから服にサイズを合わせるという行為が、ダイエットのように意図的なものであれば良いが、そうでない場合は苦痛でしかない。着もしないで捨てるのは勿体無いが、持っていても着られないという事実を突きつけ続けられる。

情報システムもそうで、高い費用をかけて導入したものがジャストフィットしればいいのだが、そうでない場合は、ぎこちなく使い続けなければならない。
そして闇雲に買ったものがジャストフィットすることはまずない。
「システムに使われる」という現象はそういう時に起こる。

前回のエントリの冒頭でいうような、「効果のでない情報システム」が登場する。

しばしば、

「沢山の営業拠点が本部にFAXで発注書を送り、本部ではそれらをエクセルに転記して集約し、さらにそれを受発注システムに取り込み発注する」


というような業務を見かけることがあるが、これは「電子データの特性」や「情報の属性」がまったく考慮されていない。

これでは、ルール作りをする者に「情報リテラシ」がない、と言わざるを得ない。

■情報リテラシとはテクノロジとは関係がない

以上、自分が考える「情報リテラシ」のエッセンスというべきものを書いた。
よく情報システムの話などをすると、「文系だから分からない」という人がいるが、今回書いた内容にテクノロジ的なことはほとんど登場していない。
どちらかと言えば考え方や発想法に近い。そこに文系も理系もない。

従来であれば、「テクノロジと考え方」の境界は曖昧だった。
しかし、テクノロジが深化・細分化し、一方で多くのWEBサービスやソフトウェアが進化していくなかで、それらは分岐した。
少し乱暴な言い方だが、情報を利用する者にとって、大切なのは「考え方や発想法」であって、その部分がテクノロジから分岐してきた今だからこそ、テクノロジを抜きに正味の「考え方や発想法」を学習することが出来る。

テクノロジの部分は専門家に任せてよく、「情報の活用方法」については自分たちで考えなければならない。というか、自分たちにしか考えられない。そこは人任せにできない。

テクノロジ部分を知っているに越したことはないが、「情報リテラシ」のエッセンスは、以上で書いたように、テクノロジではない。

逆に、「テクノロジの詳細までを知っている」ということが以前のように強力なアドバンテージではなくなってしまった。
「情報の活用」に関してのハードルは確実にフラットになっているので、むしろこれまで「分からないから」と情報システムを敬遠してきた層にこそ、本気で活用に取り組んでもらいたいと思う。



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